がんもどき

「暑さ寒さも彼岸まで」の言葉通り、桜も咲き始め、春本番になってきました。お彼岸にはお墓参りに行ったり、亡くなった方をしのんで善行をします。この期間中は精進料理をいただくことも多いですね。

精進料理は、仏教の戒にもとづいて、殺生や煩悩への刺激を避けることを目的とされた料理です。仏教以前から中国にあった精進料理である素食と、仏教とともに伝来し和食の一分野として発展した精進料理はやや違いますが、避ける食材は共通しています。肉魚などの動物性の食材ともう一つは「五葷(ごくん)」とよばれ、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、タマネギ、アサツキなど修行の妨げになるとされる匂いの強い食材です。

そんな精進料理では、肉の代用品としてたんぱく質豊富な豆腐が大活躍します。中でもがんもどきは油で揚げた満足感のある料理。関西では「ひりょうず」と呼ぶ方が一般的かもしれません。今回はそのがんもどきを手作りします。思ったよりも簡単で、揚げたては抜群においしいです!

がんもどきの材料はシンプル

 

■がんもどきとひりょうず

水を切った豆腐に山芋や卵を加えてつなぎにし、野菜などを混ぜ込んで丸め、油で揚げた食べものを、関東では「がんもどき」、関西では「ひりょうず(飛竜頭)」、または「ひろうす」という名前で呼んでいます。現在は同じものとされていますが、由来は全く別だったようです。

「がんもどき」は、江戸時代に考案された精進料理ですが、もともと材料はコンニャクで、雁の肉の味に似ているからそう呼ばれるようになったと言われています。

「ひりょうず(飛竜頭)」はポルトガルの伝統菓子「フィリョース」が語源とされていて、小麦粉に卵を混ぜ合わせ油で揚げた菓子を指すそうで、戦国時代に日本に伝わったとされます。江戸時代末期頃には現在のがんもどきに似たものがさかんに作られるようになっていたようですが、いつからコンニャクが豆腐に変わったのか、「がんもどき」と「ひりょうず」がどうして同じものになったのかなど、はっきりした由来は現在もわかっていません。

他にも関東で「薩摩揚げ」と呼ぶものを関西では「天ぷら」と呼んだり、東西の言葉の違いはおもしろいですね。

しっかり包んでおくと崩れない

 

■豆腐のしめ方でおいしさが変わります

がんもどきの主な材料は豆腐です。この豆腐、9割近くが水分でできています。もめん豆腐で約87%、絹豆腐で約89%が水分です。水分をふんわり抱き込んだ食感が豆腐のおいしさの神髄ですが、料理するときにはこの水分を適度に絞ることがポイントになります。

そのまま重石をかけて絞る他に、いったん茹でて豆腐をしめてから重石をかける方法もあります。がんもどきのように後で揚げる料理であればそのまま重石をかければよいですが、茹でて絞っておくと少し日持ちするようになります。

豆腐はさらし布からキッチンぺ―パーできっちり包んで、まな板など豆腐の倍くらいの重さの重石をかけて2~3時間おきます。あまり水を絞りすぎるとボソボソしますし、水が多いとまとまらず揚げる時に苦労します。豆腐にもよりますし、何度か試して様子をつかみましょう。

大きいすり鉢は重い方が安定します

 

■日本のフードプロセッサー「すり鉢」

以前のコラムで小さいすり鉢を持っていると便利、とご紹介しました。フードプロセッサーは少量ではうまく回らないので、胡麻をちょこっとすったり、一人二人分の料理用には小さいすり鉢がおすすめです。

一方、豆腐をすったりとろろ汁を作るなどする時は、直径30cmくらいの大きいすり鉢がおすすめです。置いた時にも安定感があり、料理好きな人は一つ持っていると楽しいです。本格的ながんもどきの作り方では「豆腐を裏ごしする」場合がありますが、すり鉢でよくすれば裏ごしはしなくても充分おいしいがんもどきができあがります。

山芋をすり鉢の壁ですりおろし、水気を切った豆腐や他の材料をを加えていけば他に道具はいりません。大きなすり鉢は、人が集まる時に大皿として出すのも素敵ですよ。

手に油少々をつけると丸めやすい

 

■具と油はお好みで

がんもどきに入れる具は人参、椎茸、ひじき、蓮根、ぎんなんなど、季節のものならなんでも大丈夫。人参、蓮根など火が通りにくいものはあらかじめ火を通しておくときれいに仕上がります。今回はお子さんも食べやすいように玉ねぎを入れて甘みを出しました。本来の精進料理ではないですが、家庭料理として作るときには少々アレンジを加えてもよいかと思います。

揚げる油によっても風味が変わってきます。絞ったままの黄色い菜種油は揚げ色が綺麗に出ます。菜種油は菜種を焙煎して昔ながらの製法で搾ったもので、抗酸化成分であるビタミンEが多く残っており、熱に強い油です。無色透明に近い菜種サラダ油はこの菜種油から重たい成分を除いたもので、いろいろな料理に使いやすくなっています。胡麻油を少々加えても風味が増します。菜種サラダ油、菜種油、胡麻油などを好みでブレンドして、おいしい揚げ油で揚げてみてください。

深さのある揚げ鍋だときれいに揚がります

 

■がんもどきの作り方

<材料>約8個
もめん豆腐 300g
玉ネギ 60g
長芋 50g
人参 30g
芽ひじき 2g
片栗粉 大さじ1
塩 小さじ2/3
揚げ油(菜種油・菜種サラダ油・ゴマ油など) 適量

<作り方>
①豆腐はさらしかキッチンペーパーに包んで倍くらいの重さの重石をかけ、2~3時間おいてしっかり水切りする。
②長芋はひげ根を焼き切ってからすり鉢でよくするか、フードプロセッサーにかける。豆腐も加えてよくする。
③人参は短い千切りにして軽く蒸しておく。玉ネギはみじん切り、芽ひじきは水で戻して絞っておく。
④②に③と片栗粉、塩を加えて、手のひらサイズの小判形にまとめて、中温の揚げ油で表面がこんがりするまで揚げる。

 

◆専門家プロフィール◆

岸田美紀
東京生まれ。1991年有機野菜宅配会社のスタッフとしてオーガニック流通の世界に入る。商品開発・カタログ制作など様々な仕事を行うかたわら、リマクッキングスクール他にて料理を学ぶ。その後、穀物菜食カフェのスタッフとしてにて、ケータリングシェフ、料理セミナー講師などを歴任。現在はフリーで「町でもできる自給自足的手づくり暮らし」をテーマに発酵食、保存食、マクロビオティックなどの講座を開催中。流通会社での経験を生かして、メーカー向けレシピ開発やコラム執筆なども手がける。