
寒天いろいろ
蒸し蒸しとした曇天が続く梅雨の日々、さっぱりとした口あたりのよいものが食べたくなりますね。
今回ご紹介するのは「寒天」。食物繊維が豊富で低カロリー、常温でも固まるので実はとてもエコな食べものなのです。最近は手軽に使える粉寒天が主流になっていますが、棒寒天や糸寒天のほうが仕上がりの食味はよいです。浸けておく一手間の違いだけなので、ぜひそれぞれ試してみてくださいね。
■寒天は食物繊維のかたまり
寒天の原料はテングサやオゴノリといった海藻類です。カロリーは100gあたり約2〜3kcal、「カロリーゼロ」と言ってさしつかえない量です。腸内環境を整える水溶性食物繊維と、腸のぜん動運動を活発にする不溶性食物繊維の両方の性質をもっています。
テングサの成分「アガロペクチン」には、抗ガン作用と、コレステロールを減らしたり、美肌作用があると言われています。食事に加えることで満腹感が生まれ、食べすぎ防止にも役立ちます。
江戸時代、食べ残されたところてんを冬に外に出しておいたところ、寒さのため凍結、昼間日にあたって乾燥したものがたまたま発見されました。これが「寒天」の起源です。煮て食べてみるとおいしく、さらに時間をおくと固まることがわかりました。以来、寒天は300年以上にわたって大切な日本の食文化になっています。

■いろいろな寒天があります
寒天にはいろいろなタイプの寒天があります。テングサやオゴノリといった海藻が材料であることは共通なのですが、大きく分けて4種類があります。
〇棒寒天(写真上)
テングサ、オゴノリを煮溶かして型で固めた後、自然の寒気を利用して凍結乾燥させて作られます。主な生産地は長野県茅野市です。
〇糸寒天(写真左下)
製造方法は角寒天と同じで、ところてん突きで細い糸状にしたものを自然の寒気で凍結乾燥させて作ります。主な生産地は岐阜県恵那市です。糸状になっているので、麺に見立てたり、和え物にしたりするのにも便利です。
〇粉寒天(写真右中)
工場で作られる粉末状の寒天で、水で戻す必要が無く、煮溶かすだけで使えます。食味は棒寒天や糸寒天に比べるとやや劣ります。
〇フレーク寒天(写真右下)
あまり市販はされていませんが、棒寒天をフレーク状にくだいたもので、浸水時間が短くて済み、棒寒天に近い食味が得られるのが特徴です。
昔ながらの棒寒天や糸寒天は少し粘りのある、粉寒天はコリコリとした食感の仕上がりになります。ゼラチンは口の温度で溶けるのに対して寒天は溶けないので、それぞれの特長をいかして使い分けます。

■寒天にはたっぷり水を吸ってもらう
棒寒天、糸寒天は水で戻すところから始めます。よく浸水させるのがおいしくきれいに仕上げるコツです。ジュースなどを使う寒天ゼリーの場合も、まずは水で寒天を煮溶かし、溶けたところへ味のあるものを加えるのが基本の作り方です。
①寒天を水で戻す
寒天を計量し、棒寒天は細かくちぎり、糸寒天の場合はよくほぐしてたっぷりの水に浸ける。そのまま常温で6時間以上浸けておく。※急ぐ場合は40℃くらいのぬるま湯で1~2時間ほど戻す。
②煮溶かす
浸水させた寒天を洗って絞り、分量の水と鍋に入れて火にかける。いったん中強火で沸騰させたらすぐ火加減し、表面がさわさわと静かに泡立つ程度の火加減で2~3分かけて煮溶かす。
③ザルで漉す・副材料を加える
寒天が溶け残ることがあるので、ザルで漉すと口あたりよくきれいに仕上がる。砂糖や果汁など副材料を入れる場合は、寒天液を漉した後に。
④型に入れ、冷やし固める
温かいうちに型に流し入れ、冷やし固める。35℃以下になると固まり始める。
粉寒天は、浸水する時間が不要で、分量の水に入れてそのまま火にかけることができます。
基本の分量は水500ccに対して棒寒天1本約8g=糸寒天24~26本約8g=粉末寒天約4gと覚えておくと便利です。


■卵寒天を作ってみよう
甘いデザートの他に、そうめんや野菜を寄せたり、さまざまな食べ方のできる寒天ですが、「卵寒天」という郷土料理をご紹介します。山形県庄内地方でハレの席に供されます。ほんのり甘い箸休めとして、おせち料理にそえるのもいいですね。
<材料>
棒寒天 1本または糸寒天8g
卵 1個
水 500cc
★醤油 大さじ1
★砂糖 大さじ1
★みりん 大さじ1
★塩 小さじ1/2
<作り方>
①棒寒天(糸寒天)はたっぷりの水につけて6時間おく。基本通りに煮溶かして漉し、★の調味料を加える。
②火を止めたら溶き卵を細く回しながら注ぎ、箸ですばやく散らす(かきまぜすぎないように注意)。すぐに流し缶に注ぎ入れて冷やし固める。


■オレンジ寒天ゼリー
オレンジの実をそのまま使うと見た目も楽しいです
<材料>
棒寒天 1本(糸寒天約8g)
オレンジ 1個
オレンジジュース 300cc
水 200cc
砂糖 大さじ1(好みで加減)
フルーツ 適量
<作り方>
①容器にするオレンジはフタの部分を切って中身をくりぬいておく。果肉は薄皮をとってほぐしておく。
②棒寒天(糸寒天)はたっぷりの水につけて6時間おく。基本通りに煮溶かして漉し、砂糖を加える。
③粗熱がとれたところへオレンジジュース、果肉適量を加え、オレンジの皮の容器に注ぐ。残りは他の容器などに。
④冷やし固めて、好みで他のフルーツ類を盛り合わせてもよい。
■水ようかん
市販のつぶあん、こしあんを使うと手軽にできます
<材料>
棒寒天 1本(糸寒天約8g)
水 300cc
つぶあん(こしあん) 300g
塩 ひとつまみ
<作り方>
①棒寒天(糸寒天)はたっぷりの水につけて6時間おく。基本通りに煮溶かして漉す。
②粗熱がとれたところへつぶあん(こしあん)を加え、あんが沈まないように人肌くらいまで冷ましながらしばらくかき混ぜる。
④容器に入れて冷やし固める。
▽砂糖を使わないつぶあんの作り方はこちら
https://www.or-st.net/recipe/expert-042/
■失敗しない寒天のコツ
1.寒天液にフルーツなどの副材料を入れるときは、色や風味が損なわれないように粗熱をとってから加えます(全体を均一にしたい時は、固まりはじめるまで時々混ぜる)。
2.寒天液に果汁や牛乳などの液体を加えるときは、必ず常温から人肌の温度にしてから加えます。冷たいまま寒天液に加えるとムラになったり固まらなくなったりする場合があります。
3.果汁など酸の強いものを加えると、凝固力が弱まるので寒天液の量を多めにします。また果汁を加えるときは、加熱し続けると固まらなくなるので、必ず火を止めてから加えます。
基本さえおさえておけば、甘さ固さなどなど、好みでアレンジできる寒天。この夏はいろいろチャレンジしてみてくださいね!
◆専門家プロフィール◆
岸田美紀
東京生まれ。1991年有機野菜宅配会社のスタッフとしてオーガニック流通の世界に入る。商品開発・カタログ制作など様々な仕事を行うかたわら、リマクッキングスクール他にて料理を学ぶ。その後、穀物菜食カフェのスタッフとしてにて、ケータリングシェフ、料理セミナー講師などを歴任。現在はフリーで「町でもできる自給自足的手づくり暮らし」をテーマに発酵食、保存食、マクロビオティックなどの講座を開催中。流通会社での経験を生かして、メーカー向けレシピ開発やコラム執筆なども手がける。