酒粕で蒸しパン作り

「酒は寒造り」、というように今が酒造りの最盛期ですね。日本酒は年々消費量が減って食卓から消えつつありましたが、近年の蔵元の努力により、日本酒のよさが見直され、あわせて酒粕の持つ高い健康効果が改めて注目されるようになってきました。酒粕は、酒の素である「もろみ」を搾った後に残ったもので、産業廃棄物として処理されることも多いのですが、実は栄養価に優れた貴重な食材です。


酒粕は今の時期ならスーパーでも手に入ります

■酒粕の栄養 

酒粕には、最近注目されている成分「レジスタントプロテイン」が豊富に含まれています。タンパク質の一種で、酒を造る過程で生まれます。胃で消化されにくく、腸まで届き脂質を吸着し、便となって排出されます。悪玉コレステロールを減らすという研究データも発表されています。また、酒粕は米からできていますが、米とは全く異なる旨味などの風味に加えて、栄養価も格段に上がっています。アミノ酸の量は米の583倍にもなり、食べ物からしか摂取できない必須アミノ酸の9種類が全て含まれているのです。

そのほかにビタミンB2は26倍、ビタミンB6は47倍にもなり、肌トラブルだけでなく、しわの予防になるナイアシンなども豊富に含まれています。さらに酒粕には、消化酵素や代謝酵素、食物酵素など100種類以上の酵素が含まれていることがわかっています。酵素はできるだけ食べ物から補うことが理想とされていて、発酵食が体によいとされている理由の一つでもあります。

2~7日ほどかけてゆっくり発酵


■酒粕の酵母 

日本酒の基本の原料は米と水、麹菌、酵母、乳酸菌です。まず米のでんぷんを麹菌が分解して糖分にし、その糖分を酵母が食べてアルコールと炭酸ガスに分解します。乳酸菌は雑菌の繁殖を抑えるはたらきをします。

米の主成分はでんぷんですが、そのままでは酵母が利用できないので、まず麹の働きによって糖へと分解します。米麹はでんぷんの分解酵素のほかにタンパク質の分解酵素も含んでおり、タンパク質を分解して生じるアミノ酸やペプチドは、酵母の生育や完成した酒の風味に影響します。

次に、酵母は糖分を食べてアルコールと炭酸ガスに分解します。その時に含まれる主成分に「カプロン酸エチル」「酢酸イソアミル」といったものがありますが、実はこの成分はリンゴやメロン、バナナなどの香り成分に含まれているものです。米と米麹で造られた日本酒から、まるで果物かのようなフルーティな香りがする理由は、この成分によるところが大きいのです。

麹菌も酵母も菌類の一種で、広く見ればカビの仲間です。食品が発酵するためには酵母が必ず必要で、日本酒以外にも味噌やしょうゆ、ぬか漬けなどの漬物、パンやチーズも酵母の力で発酵します。酵母には数多くの種類があり、用途に合わせて使い分けられ、特に日本酒造りの際に用いられる酵母のことを「清酒酵母」と呼びます。でもこの酵母を育ててパンを焼いたりまんじゅうを作ることもできるのです。


粉と酒粕種を混ぜて半日ほどおくと2倍に膨らむ

 

■酒粕酵母でパンを作る

酒粕の酵母は力が強いため、糖分をえさにして増やすことでパンを発酵させることができます。寒さにも強い酵母なので、室温でも時間をかければ発酵します。生き物とつきあうように気長に見守ってみましょう。蒸しパンは少々発酵が不十分でもおいしくできあがるので、焼いたパンよりも手軽にできておすすめです。

酒粕酵母蒸しパンの作り方
<材料>16個分
◎元種
酒粕  30g
ごはん 30g
水   50g

◎パン種
強力粉  300g
塩    小さじ2/3
元種   全量
ぬるま湯 100cc前後

<作り方>
①熱湯消毒した清潔な瓶に酒粕、ごはん、水を入れてよくかき混ぜ、ゆるくフタをして直射日光のあたらないところに置く。室温にもよるが2~7日でぷくぷくと泡が出て発酵し始める。泡が盛んに起こって落ち着きかけたところで完成(冷蔵庫で保管できるがその間も発酵は進むのでできるだけ早く使う)。

②強力粉、元種全量、塩、ぬるま湯を大きめのボウルにあわせてよくこねる。耳たぶくらいの固さになって表面がつるつるになったらきれいに丸めて、ラップをして半日ほど室温に置く(急ぐ場合は30℃くらいの温かい場所で1~2時間おく)。

③もとの2倍くらいの大きさに膨らんだら16等分し、細長く伸ばしてからくるくると巻くように成形する。蒸篭に入れ、温かい場所で30分くらいおいて発酵させる。

④蒸気の上がった鍋の上に③の蒸篭をのせて10~15分ほど蒸す。


好きな形に丸めて

 


冷めたら蒸し直していただきます

 


冬は常備したい酒粕味噌床

■酒粕は保存性に優れた食品です

長期保存には冷凍がおすすめですが、酒粕自体が生きた発酵食品なので密閉して冷蔵保存しても、状態がよければ何年でも使うことができます。酒粕には多くの有用な微生物が働き、雑菌の繁殖を防いでくれるので、あわせた食材の保存性も格段にアップします。粕漬けは暮らしの知恵の結晶ですね。

酒粕味噌漬けの作り方

<材料>

◎漬け床
酒粕 200g
味噌 100g
塩 10~20g
厚揚げ・野菜など 適量
固いものは下茹で、きゅうりなど水っぽいものは塩で下漬け
茹で卵

<作り方>
漬け床の材料をあわせる。下漬けした野菜を漬け込む。1~2日で食べられる。
厚揚げは味噌をぬぐって焼いて食べる
※漬け床は野菜→魚→肉の順に使い、汚れて薄まったら鍋、味噌汁などで火を通して使う。


シンプルに甘酒で味わう

 

■アルコールに弱い人は注意!

酒粕に含まれているアルコール度数は、8%前後と言われています。これは、ビールと同じ程度かそれよりも多いアルコール度数であるため、自動車を運転する人やお酒に弱い人はそのまま食べるのは避けた方がよいでしょう。アルコールは78℃以上の熱で飛ばすことができるとされており、酒粕のアルコール分は加熱することによって減らすことができるので、粕汁や甘酒などはよく煮詰めます。それでもアルコールが残っていることがあるので、子どもや妊婦の方などは気を付けたほうがいいですね。

甘酒の作り方

<材料>2~3人分

酒粕 50g
水  300cc
砂糖 適量
塩  少々
生姜 少々

<作り方>
①鍋に酒粕、水を合わせ一晩おく(1日おかなくても可)。

②弱火にかけてよく酒粕を溶かし、砂糖と塩で甘味をつける。

③あれば生姜の絞り汁を2~3滴入れるとおいしい。

 

◆専門家プロフィール◆

岸田美紀
東京生まれ。1991年有機野菜宅配会社のスタッフとしてオーガニック流通の世界に入る。商品開発・カタログ制作など様々な仕事を行うかたわら、リマクッキングスクール他にて料理を学ぶ。その後、穀物菜食カフェのスタッフとしてにて、ケータリングシェフ、料理セミナー講師などを歴任。現在はフリーで「町でもできる自給自足的手づくり暮らし」をテーマに発酵食、保存食、マクロビオティックなどの講座を開催中。流通会社での経験を生かして、メーカー向けレシピ開発やコラム執筆なども手がける。