そばがきを楽しむ秋

新そばの季節がやってきました。そば屋で手打ちそばを堪能するのはこの時期ならではの楽しみですね。でも、家庭でも手軽に新そばのおいしさを味わう方法があります。それが「そばがき」、そば粉を熱湯でこねて餅状にした食べものです。東北地方などそばの産地には、そばがきにしたものを鍋に入れたり野菜と混ぜて食べるなどの郷土料理が伝えられています。

「そば」と言うと麺にしたものを思い浮かべますが、こちらは「そば切り」と言い、手間のかかる贅沢品です。武士しか食べてはいけない時代もあったそうで、江戸時代になってようやく麺としてのそばが庶民の間に広まりました。

■穀物の仲間ですが、米とは違います

そばは穀物に分類されていますが、植物としてはタデ科ソバ属の一年草。穀物と呼ばれるもののほとんどはイネ科ですがそばはタデ科。イネ科以外の穀物は「擬穀類」と呼ばれ、アマランサス(ヒユ科)、キヌア(アカザ科)などがあります。

そば粉の栄養の特長は、穀類のたんぱく質では不足しがちな、必須アミノ酸「リジン」の含有量が多いことです。そば粉(挽きぐるみ)のリジンは100gあたり700mg、小麦粉は220mg、全粒小麦粉でも350mgしかありません。リジンが少ないのは、小麦や米などイネ科の穀物に共通した特徴ですが、タデ科のそばには豊富に含まれています。

一般にたんぱく質の栄養価は、アミノ酸スコアで表わされますが、小麦粉の中でも最も高い薄力一等粉で44、白米65、玄米68に対して、挽きぐるみのそば粉では92にもなります。ただ、そば粉のたんぱく質も完全なものではありません。小麦粉はそば粉には少ないアミノ酸も含んでいます。そのため、つなぎに小麦粉を加えることでアミノ酸バランスが整います。最近は、つなぎを加えない十割そばが人気ですが、栄養面から見れば二八そばがもっと評価されてもよいのです。

もう一つ、そばが体に良いと言われている大きな理由は、ポリフェノールの一種である「ルチン」が多く含まれているためです。 ルチンは、毛細血管の働きを強化し血液の循環をよくします。新陳代謝が高まり活性酸素を除去する働きもあります。

ただしルチンは水溶性なので、ゆでる時に湯の中に溶け出してしまいます。そば湯を飲むのは栄養を余さず取り入れるためで、とても理にかなっていることなのですね。そばがきは茹でないので特におすすめです。

■そば粉いろいろ 

写真左は収穫されたままのそばの実、「玄そば」です。写真の真ん中、玄そばの外側の殻を取り除いた実を「ぬき実」と呼びます。このぬき実を製粉機にかけると、最初に実の中心部分が粉になって出てきます。色が白くわずかに甘味があり、そばらしい風味は弱いものの、シャキッとした歯切れの良いそばになります。これを「更科粉(一番粉)」と呼びます。更科より皮に近い部分が粉になったものを順に二番粉、三番粉と呼び、ふるい分けせずに殻を一緒に挽いた粉を「挽ぐるみ」と呼びます。挽ぐるみは色は黒いですが香りが強くそばらしい味わいを楽しむことができます。市販されているそば粉は香りと食感のバランスのよい二番粉あたりであることが多いようです。

■そばがきの作り方

そば粉は小麦粉などに比べて火の通りやすい粉で、熱湯を注いで混ぜただけでも食べることができるため、そばがきの作り方には二通りあります。

1.椀がき 器にそば粉を入れて熱湯を注ぎ、よくかき混ぜる。
2.鍋がき 鍋に湯を沸かし、そば粉を入れて弱火にかけながら練る

手軽なのは1です。粉と混ぜたときにお湯の温度が下がるので、食感は柔らかくなります。よりおいしくいただくには2の方法がおすすめです。小鍋に熱湯を沸かして、沸騰しているところにそば粉を入れて一気にかきまぜます。弱火にかけながら練り続けると弾力が出てきます。全体がなめらかになったらできあがりです。

分量はそば粉100gに熱湯150~200cc、椀がきは少なめの湯、鍋がきは多めの湯で作るとよいでしょう。粉の挽き方や水の量によって仕上がりの食感が変わってくるので、あまり厳密に考えないで「だいたい」で、まずは作ってみてください。

沸騰した熱湯にそば粉を入れて一気に混ぜる

■そばがき

練ったそばがきを温かいうちに食べやすい大きさに丸め、湯を張った椀に盛りつけます。わさびなど添えてできあがり。そばの香りと弾力を楽しみつつ、醤油を少々つけながらいただきます。木の葉型に整えたり、めんつゆやだしを張るなど、そば屋さんによって個性的なそばがきがありますね。

■そばぜんざい

一口大にちぎって丸めたそばがきに、適度に薄めた餡をかけます。温かくいただきたい時は、そばがきをさっとゆでてもよいでしょう。少々固くなりますが、冷やしてもおいしいです。

■そば団子

食べやすい大きさに丸めたそばがきを串に差し、きなこと黒蜜をかけます。みたらし、ごまだれ、いろいろな味で楽しんでみてください。そばがきを少し固めに作ったほうが丸めやすいかもしれません。

■そばがきナゲット

そばがきに塩少々を混ぜ、一口大に握って油で揚げます。揚げた時に破裂しないよう、しっかり空気を追い出して握るように注意してください。ナッツなど加えてもおいしいです。生姜醤油がよくあいます。

■そば団子汁

野菜をたっぷり入れた汁に、一口大に丸めたそばがきの団子を加えます。そば粉を水で練って加えてから煮ることもできます。東北や長野など、そばの産地ではよく食べられている郷土食です。シンプルに鶏だしとネギだけの汁に浮かべるなど、その土地ごとにさまざまな食べ方があります。

そばはやせた土地にも育つ救荒作物であり、とてもおいしく栄養に優れた食べものです。贅沢品と思わず、この秋はぜひ新そばの粉を手に入れて、そばがきを楽しんでみてくださいね。

 

◆専門家プロフィール◆

岸田美紀
東京生まれ。1991年有機野菜宅配会社のスタッフとしてオーガニック流通の世界に入る。商品開発・カタログ制作など様々な仕事を行うかたわら、リマクッキングスクール他にて料理を学ぶ。その後、穀物菜食カフェのスタッフとしてにて、ケータリングシェフ、料理セミナー講師などを歴任。現在はフリーで「町でもできる自給自足的手づくり暮らし」をテーマに発酵食、保存食、マクロビオティックなどの講座を開催中。流通会社での経験を生かして、メーカー向けレシピ開発やコラム執筆なども手がける。