
紅玉ジャム
最近は新しい品種が開発されて、おいしいりんごに出会う機会が増えた一方、昔ながらの品種も見直されてきているようですね。今回はそういった古くから日本で育てられているりんご、紅玉のお話。きれいなピンク色に仕上げるジャムの作り方のご紹介です。紅玉は9月の終わりごろから11月上旬の短い時期に出荷されるので、見つけたら迷わず手にしてみてください。きりっとした酸味がさわやかで、そのまま生食してもおいしいですよ。

■まさに紅色の玉
「紅玉」という品種は漢字名ですが、もともとはアメリカで発見、育成された品種で、日本には明治時代初めに導入された歴史の古いりんごです。他のりんごにない鮮やかな濃い紅色で光沢があり、酸のきいた甘味、さわやかな芳香が特徴で、煮崩れしにくいため加工用に向いています。甘味の強いリンゴに押されてどんどん減っていきましたが、アップルパイなどの製菓用には根強い需要があり、ふたたび生産量が増えてきています。
収穫期は10月上旬~中旬ですが、農家の方に言わせると「本当においしいのは10月下旬だけれど、それまで樹におくとやわらかくなって売り物にならないから」とのこと。どんな果樹でもやはりぎりぎりまで樹に成って完熟したものがおいしいのです。都会で手に入る便利さと本当のおいしさはどうしても矛盾するものですね。

■りんごの皮
またしても皮の話ですが、りんごの皮と皮の近くの部分には、果肉部分以上に食物繊維やビタミンCなどの栄養が詰まっていて、高血圧の予防や便秘改善、整腸作用、貧血予防などに効果が期待できます。また、ポリフェノールも皮や皮の近くに多く含まれています。
りんごは皮ごと食べるのがおいしく美しく、栄養的にもおすすめなのですが、ジャムにするときは皮を分けると食べやすくなりますね。一方で皮の赤色をいかしたジャムを作るには…ということで、いったん皮をむいてその皮ごと煮て取り出す、という方法があります。
詳しい作り方はレシピを見ていただきたいのですが、皮を真ん中において煮あがった時に取り出します。気にならない、という方はもちろん皮ごと刻んで煮てしまえばよいのですが、滑らかで舌触りのよいジャムにしたいときには皮を除きます。この一緒に煮た皮もおいしいので、取り出した後はヨーグルトなどと一緒にいただきましょう。

■白い砂糖と茶色い砂糖
ところで、ジャム作りにはどんな砂糖を使いますか?茶色い砂糖のほうが健康によいイメージがありますが、実際のところはどうなのでしょう。今回のジャムはてんさい上白糖で作りましたので、てんさい糖について紹介してみます。
砂糖の原料は「サトウキビ」と「てんさい(砂糖大根・ビート)」です。日本ではサトウキビの方が多いですが、世界の砂糖の原料はサトウキビが約60%、てんさいが約40%という割合で、ヨーロッパでは、砂糖と言えば「てんさい糖」という国も多いようです。
てんさいは大根に似た姿で、日本では主に北海道で栽培されています。寒い土地で育つため、身を守るためにオリゴ糖を多く含んでいます。天然のオリゴ糖には腸内環境を整えるはたらきがあり、血糖値の上昇が緩やかです。またオリゴ糖の甘味は薄いため、さっぱりとした甘さに感じられます。
てんさいを収穫したら根の部分をカットして、温水につけて糖分を抽出、ろ過して煮詰め遠心分離器にかけて結晶と蜜分に分けます。葉や搾りかすは家畜の飼料や堆肥として畑の土作りに生かされます。てんさいは北海道の輪作体系と畜産業になくてはならない作物なのです。
砂糖は製造法によって大きく「分蜜糖」と「含蜜糖」に分けられます。分蜜糖は糖分の結晶と糖蜜とを分離して結晶のみを取り出しもの。上白糖やグラニュー糖、三温糖などです。「含蜜糖」は結晶と糖蜜を分離させていないもの。てんさい含蜜糖や黒砂糖、和三盆などがあります。
「含蜜糖」にはカリウムやカルシウム、鉄などのミネラル成分が含まれており、「分蜜糖」の場合、ミネラル成分はほとんど含まれていません。そこはてんさい糖もサトウキビ糖も同じです。ただし、てんさい糖にはオリゴ糖が含まれており、腸内のビフィズス菌を増やす効果が期待できます。
ジャムや製菓に使う場合には、含蜜糖はやや茶色い色がつきコクのある甘さに、上白糖やグラニュー糖はさっぱりと素材の色をいかすことができます。今回はきれいなピンクに仕上げたいため、てんさい上白糖を使ってみました。日常の料理にはてんさい含蜜糖、製菓用にはてんさい上白糖を使うなど、どちらがよいか、その時々で使い分けたり比べてみるのも楽しいものです。

■紅玉ジャムの作り方
<材料>
紅玉りんご 1kg(6~7玉)
砂糖 りんごの20~25%
塩 ひとつまみ
<作り方>
①りんごは洗って丸ごと皮をむく(なるべく皮はつなげてむく)。むいた実と皮は色が変わらないようにしょっぱいくらいの塩水にくぐらせる。
②実は4つ割りにして7mmくらいのいちょう切りにする。
③鍋に②のりんごを入れ、分量の砂糖をまぶす。真ん中に皮を丸めて埋める。りんごから水が出てくるまで15~20分くらいおく。
④りんごから水が出てきたら中火にかけて、煮立ってきたら弱火にして焦がさないように様子を見ながら煮る。たまに底から大きく混ぜてみる。皮は真ん中から動かさない。
⑤皮から赤い色が出るので全体に鍋を時々まわして全体が染まるようにしながら煮詰めていく。
⑥煮沸消毒したビンに詰めて、フタをしたらもう一度ビンの肩くらいの高さの湯で煮沸すると常温で半年以上もつ。

◆専門家プロフィール◆
岸田美紀
東京生まれ。1991年有機野菜宅配会社のスタッフとしてオーガニック流通の世界に入る。商品開発・カタログ制作など様々な仕事を行うかたわら、リマクッキングスクール他にて料理を学ぶ。その後、穀物菜食カフェのスタッフとしてにて、ケータリングシェフ、料理セミナー講師などを歴任。現在はフリーで「町でもできる自給自足的手づくり暮らし」をテーマに発酵食、保存食、マクロビオティックなどの講座を開催中。流通会社での経験を生かして、メーカー向けレシピ開発やコラム執筆なども手がける。