丸ごとのトマトケチャップ

お盆が終わると暦の上ではもう秋。猛暑もやわらぎ、代わりに台風がやってきます。畑の夏野菜もそろそろ終わりに近づいていますが、秋までのあいだにぜひ作りたいのが自家製のトマトケチャップ。完熟していまにも割れそうなトマトを見つけたら、迷わず手に入れてください。材料をミキサーにかけて煮詰めるだけで、好みの味に仕上げることができます。一度食べたらやみつきになる味ですよ!

■トマトケチャップとは

「ケチャップ」が「トマトケチャップ」のことを指すようになったのは15~16世紀以降のことで、もともとは東南アジアの魚醤がその語源とされています。イギリス領だったマレーシアを経てヨーロッパに伝わるうちに、キノコや野菜、フルーツなどを原料にしたある種の調味料を総称してケチャップと呼ぶようになり、やがてそれがアメリカに伝わって現在のようなトマトをベースにした「トマトケチャップ」ができあがりました。

日本にトマトケチャップが入ってきたのは明治時代後期のことで、初めて国産ケチャップを製造販売したのが現在のカゴメ、輸入販売を始めたのが現在の明治屋と言われています。日本ではポリエチレン製のチューブが開発されてから爆発的に売れるようになり、醤油や味噌とおなじように各家庭に常備されている調味料になりました。

人間がおいしいと感じる塩味、甘味、旨味はそれぞれ、ミネラル、エネルギー源、たんぱく質という生きていくために絶対に必要なものを知らせる味覚ですが、ケチャップにはこの他に代謝を促す酸味も含んだ非常にバランスのいい調味料です。そこに視覚でおいしいと感じやすい赤色と、嗅覚を刺激する香辛料が加わって、やみつきになる味が作り出されています。読んでいる間にも、ケチャップを食べたくなってきませんか?

■トマトの旬はいつ?

トマトの露地栽培の旬は6~8月の夏。とはいうものの、南米アンデス高地原産のトマトは高温多湿に弱く、冷涼で強い日差しを好む野菜なので、日本の真夏のトマトは味の面からは旬とは言えないのです。味がおいしいのは、春から初夏の時期と秋。本州以南ではハウス栽培だったり、あるいは北海道などの産地が主流になりますが、寒暖差があり乾燥した気候の中でトマトは糖度をあげ、栄養価も高くなります。

日本でトマトの栽培が始まったころはハウスなどの設備がなく、春に畑に種まきしたものは、夏に実がなることから「トマトの旬=夏」とされてきました。ですが夏はどちらかと言えば「量の旬」。育ちが早く、水分を多く含み、味はやや薄い。熱い夏の水替わりになるトマトなのですね。

トマトケチャップにするトマトは、もちろん味が濃い方がよいのですが、熟れすぎて困った、というトマトを見かけるのは勢いよく育つ真夏のことが多いようです。

ちなみに、製品として販売されているケチャップの原料トマトは、加熱すると甘くなる加工用の品種で、生食用の品種とは違うのです。一般には加工用トマトを見かけることは少ないのですが、もし手に入ったらぜひトマトケチャップやトマト料理を作ってみてください。

材料はトマト、玉ネギ、ニンニクに香辛料、塩、はちみつ、酢とシンプル

■トマトの皮は剥くべきか

本格的なトマトケチャップの作り方としては、トマトや玉ねぎをフードプロセッサーやミキサーにかけた後、いったんざるで濾して皮や種を取りのぞきます。でも、家庭で手作りする場合は、皮も種もそのまま煮詰めてしまったほうが丸ごとの栄養をいただくことができます。

トマトの皮や種は、果肉よりも栄養が豊富で、リコピンなどのポリフェノールが 圧倒的に多く含まれています。特に赤いトマトの皮には、高い抗酸化作用のあるリコピンがたっぷり含まれています。トマトに限らずほとんどの野菜は皮のすぐ内側に栄養が多く含まれているので、栄養のことを考えたらできるかぎり皮は剥かないほうがいいのです。

本格的なケチャップのレシピではトマトの皮は湯剥きしたり、種を濾しとったりしますが、主な目的は食感をよりなめらかにするためです。それはそれで本格派のトマトケチャップを作る方法ですが、家庭で作るのであれば、少々種のつぶつぶがあってもご愛嬌ですし、むしろ栄養を損なわず、楽に手作りするように考えていいのではないかと思います。

ミキサーでよくトマトを砕いてから煮始めれば、皮もそれほど気にならないので、皮も種も「丸ごとのトマトケチャップ」をぜひお試しくださいね。

ミキサーにかけた後は白っぽく見えますが大丈夫

 

半分くらいになるまで気長に煮詰める

■丸ごとトマトケチャップの作り方

<材料>できあがり約250g

完熟トマト 500g 割れるくらいの完熟がよい
玉ねぎ 中1/4個
ニンニク 小1片

■スパイス

ローリエ 1枚
クローブ 2粒
シナモン 少々
オールスパイス 少々
コショウ 少々

■調味料 トマトの糖度でもかなり変わるので好みで調節する

はちみつ(砂糖・アガベシロップなどでも可) 大さじ1/2
塩 小さじ1/2
りんご酢またはワインビネガー 小さじ2
(片栗粉 少々 とろみをつけたい場合)

 

<作り方>

①トマト、玉ねぎ、ニンニクをざく切りにし、材料の形がなくなるまでフードプロセッサーかミキサーにかける。※口当たりをよくしたい場合は目の粗いザルでこし、トマトの種や皮などを取りのぞいてもよい。

②鍋に①を入れ、半量~2/3量になるまで弱めの中火で煮詰める。

③スパイス類を加え15分ほど弱火で煮る。

④味を見ながら調味料を加え、好みのかたさになるまで煮詰める。とろみが弱い場合は片栗粉でとろみをつけてもよい。塩と酢、糖類で味をととのえる。

※熱いうちに熱湯消毒した密閉容器に入れて冷蔵で約1ヵ月、冷凍で約3ヵ月ほど。

小さめのビンに分けて保存して、フレッシュな味を楽しみましょう

 

◆専門家プロフィール◆

岸田美紀
東京生まれ。1991年有機野菜宅配会社のスタッフとしてオーガニック流通の世界に入る。商品開発・カタログ制作など様々な仕事を行うかたわら、リマクッキングスクール他にて料理を学ぶ。その後、穀物菜食カフェのスタッフとしてにて、ケータリングシェフ、料理セミナー講師などを歴任。現在はフリーで「町でもできる自給自足的手づくり暮らし」をテーマに発酵食、保存食、マクロビオティックなどの講座を開催中。流通会社での経験を生かして、メーカー向けレシピ開発やコラム執筆なども手がける。