
梅干しはまさに塩梅
梅雨入りしたのかしないのか、晴れた日の午後に滝のような土砂降りに見舞われるということもあり、最近は日本とは思えない熱帯地方のような天気に変わってきていることを感じますね。さて、今回は梅雨という文字通り、この季節の手仕事、梅干し作りについてのお話です。
■「塩梅」の語源はやっぱり塩と梅
「塩梅」の意味を広辞苑で調べると
1.塩と梅酢で調味すること。一般に、料理の味加減を調えること。また、その味加減。
2.物事のほどあい。かげん。特に、身体の具合。
3.ほどよく並べたり、ほどよく処理したりすること。
とされていて、「塩梅」は「物事の具合や様子・天気や健康の状態」を表しています。
さて、もともとの「塩梅」は「えんばい」と読んで「塩と梅酢」を意味していました。穀物で作る酢より、梅を漬けた時にできる梅酢のほうが歴史が古く、穀物酢がなかった時代は、塩と梅酢を使って料理の味付けをしていました。バランスよくおいしい味にできあがると「加減がよい」という意味で「塩梅がよい」と言ったのが語源です。これが後々「物事の具合や様子」という意味になったとされています。
■梅干しは完熟梅で!
「梅干しをおいしく漬けるコツは?」と聞かれることが多いのですが、塩漬けまでのポイントは「完熟梅を選ぶこと」と「重石の加減で絶妙の塩梅を決める」という2つです。
まず「完熟梅を選ぶこと」ですが、ふつうに店頭に並んでいる青梅は、農家が収穫してから2日以上たっていることが多いのです。それは、梅の産地で収穫してから店頭に並ぶのは早くても翌日、市場を通したものはさらに1日以上、ということになるからです。梅を移動する間にいたんだり潰れたりしないように、農家は逆算してやや青めで収穫することになります。
でも、ほんとうは「木から落ちてくるところを拾いました!」というくらい完熟であるほうが確実においしい梅干しができあがります。梅干しの味はここで半分決まるといっても過言ではありません。「人間のスケジュールで買ってきた梅で漬ける」のではなく「梅が落ちてきたスケジュールにあわせて漬ける」のが理想なのです。
とはいえ、そんなことはふつうの都会暮らしでは望めませんので、できる範囲で完熟の梅で漬けることを目指します。
■追熟と桃の香り
青梅を買う時は、いたみが少なく少し黄色く熟し始めているものを選びます。収穫して日をおかずに発送される産地直送の宅配で購入するのがおすすめです。届いた梅は大きめのざるや新聞紙などの上に平らに広げて2~3日おいて追熟させます。届いたポリ袋のまま冷蔵庫にいれたりするといたむばかりですので、すぐに広げます。


梅が黄色く熟してくると、なんともいえない桃のような香りが漂い始めます。この香りが感じられるまで待ちたいのです。ただし、その年の梅の状態によっては茶色いいたみがでてきてしまうこともあるので、その時はあるていど黄色くなったところで、いたみが進む前に塩漬けにします。へこんだり潰れたりしたものは残念ですが梅干しにはせず、使えるところだけをカットしてジャムやコンポートにします。
ちなみに梅やスモモは「バラ科サクラ属」、桃は「バラ科モモ属」の植物なんだそうです。「スモモも桃も桃のうち」という早口言葉がありますが、植物としては梅も桃のうち、なのですね。
■塩と重石の「塩梅」が何より大切
よい塩梅に追熟できたら、こんどは塩漬けです。にがり成分の残っている自然塩を梅の重さの20%ほど。ややしょっぱい昔の味の梅干しに仕上がる塩分ですが、少ないとカビが出たりしやすいので、減らしても15%くらいまでにします。
容器をよく焼酎などでふいたら、塩と梅を交互にかさねて入れていきます。梅酢を梅に少しまぶしながら入れると、梅の水分が出やすくなるのでおすすめです。

さてここからが第2のポイント。一番上に落としぶたを置いたら重石をかけるのですが、はじめは梅の2倍くらいの重さで1日ほど様子を見ます。梅酢が高さの半分くらいまで上がったら、重石は半分にします。ここからはどんどん梅酢が上がってきますので、最初の重石のままにしておくと梅から水分=梅酢が出過ぎて固くてうまみのない梅干しになってしまうのです。かといって最初の重石が少なすぎるといつまでも梅酢が上がらず、上の方がカビてしまうことがあります。一方、ほんとうの完熟梅の場合は最初から重石をかけないでもよいくらいで、そこがまさに「塩梅」を見るべきところです。重石を減らしながら最後は梅がギリギリ梅酢にひたっているようにします。
ここまでできたら、梅干し作りの前半は成功です!7月に入って赤紫蘇が出回るのを待って、紫蘇漬けと土用干しに入ります。次回のコラムでその手順やコツなどをお伝えしますのでお楽しみに!
■梅干の漬け方~塩漬けまで~
<用意するもの>
●梅
●塩:梅の重さの15~20%。できれば自然海塩、または天然のニガリを含んだ漬け物用の粗塩がよい。
●容器:ホーロー引きや陶製の容器がベスト。木製の樽や押し蓋はカビが出やすいので難しい。
●重石: 梅の重さの2倍の重石を用意する。ペットボトルなど。
●焼酎またはホワイトリカー:容器の殺菌用の35度の焼酎またはホワイトリカー
●盆ザル:土用干し用の竹などでできた平らなザル
<漬け方>
1.梅の下ごしらえ
①梅のヘタを竹串で一つ一つ丁寧に、傷をつけないように取り除く。
②桶に水を張って梅をよく洗う。黄熟した梅はほとんどアクがないので、水に浸ける必要はない。
③ザルや野菜コンテナに上げてよく水気を切って乾かす。
2.梅を塩漬けにする
①容器をきれいに洗って乾かし、カビ防止のため焼酎などで内側を拭く。
②容器の底に梅を隙間なく並べ、塩を振り入れ、その上に梅を並べ、また塩を振り入れる。これを1段ごとに繰り返す。
③梅を全部容器に詰めたら、多めに残しておいた塩をのせ、落とし蓋と梅の重さの2倍の重石を乗せる。
④ホコリや雑菌が入らないように重石の上から大きな紙袋などをかけて、直射日光のあらない涼しい場所に置く。
⑤1~2日後、梅酢が押し蓋の上まで上がってきたら、重石を半分の重さ(梅と同じ重さ)にする。梅酢の上がりが悪いようだったら重石を増やす。3~4日くらいで落とし蓋の上まで梅酢があがるのが理想。梅が梅酢から顔を出さないようにごく軽く重石をして、6月下旬~7月初旬に赤紫蘇が手に入る時まで保管する。
◆専門家プロフィール◆
岸田美紀
東京生まれ。1991年有機野菜宅配会社のスタッフとしてオーガニック流通の世界に入る。商品開発・カタログ制作など様々な仕事を行うかたわら、リマクッキングスクール他にて料理を学ぶ。その後、穀物菜食カフェのスタッフとしてにて、ケータリングシェフ、料理セミナー講師などを歴任。現在はフリーで「町でもできる自給自足的手づくり暮らし」をテーマに発酵食、保存食、マクロビオティックなどの講座を開催中。流通会社での経験を生かして、メーカー向けレシピ開発やコラム執筆なども手がける。