
春の苦み、たけのこ
「春苦味、夏は酢の物、秋辛味、冬はあぶらと心して摂れ」
明治時代の軍医で、西洋医学に頼らず食事で病気を治すという食養医学の礎を築いた石塚左玄の言葉です。
春は体にたまった老廃物を苦味のある山菜や野菜で解毒して流し、夏は酸味のあるもので疲れを癒す。秋は食欲も増す収穫の季節なので辛味のもので代謝をよくし、冬は寒さに備えて、油を食べて脂肪を蓄える、という意味です。
冬から春へと体を整えていくのに欠かせないのが苦みのある食べものです。冬眠から目覚めた熊が最初に口にするのがフキノトウと言われるように、苦みの成分は肝臓のはたらきを助けて解毒を促してくれます。
ところで春の味覚の代表と言えばたけのこ。掘り上げてすぐにゆでたたけのこは水煮で購入したものとは味わいが格段に違います。やさしいほのかな苦みと独特の旨み、食感がおいしいたけのこ、掘ってから時間がたてばたつほどアクが増していくので、手にした瞬間からとにかく早くゆでることが肝心です。
必要なものは大きな鍋と米ぬか、唐辛子。米ぬかが手に入らない場合は一掴みの米、あるいは米のとぎ汁でもかまいません。とりかかってみるとあんがい簡単です。小さめのたけのこのほうがアクも少なく気軽です。ビン詰めにすれば長期保存することもできます。
たけのこの下ごしらえ (ゆで方)
用意するもの 大きい鍋・米ぬか(玄米)・唐辛子
①たけのこは切り口ができるだけ白いものを選びます。皮にツヤがあって枯れていないもの、先端の緑の芽の色が薄く、大きく出ていないものがよいです。
②たけのこは皮をむかずに泥を洗って落とし、先端1/5くらいを斜めに切り落として浅く切りこみを入れます。たけのこが入る大きさの鍋にいれてかぶるくらいの水と米ぬかまたは米を入れます。たけのこ2~3本に米ぬか1カップくらいがめやすです。
③唐辛子1~2本を加えて強火にかけ、沸騰したらグツグツ煮立って吹きこぼれないくらいの火加減で煮ていきます。小さいものなら1時間、1kg以上あるような大きいものだったら3時間くらい、様子を見ながら煮ます。
④たけのこは中に空洞があって浮くので、落し蓋をしたほうがよいです。木の落し蓋がなければ一回り小さい鍋のフタや軽めの皿などで代用してもよいでしょう。
⑤途中で水が減ったら足しながら煮て、根元の方に竹串を差してすっと通るくらいになったらそのままゆで汁ごと冷まします。冷めていくあいだにもアクぬきが進むのです。
⑥完全に冷めたら、縦に切りこみを入れたところから皮をむきます。水に完全に浸かるようにタッパーなどに入れて、時々水を変えながら冷蔵庫で保存すると1週間程度はもちます。
たけのこのビン詰め~長期保存の方法
用意するもの:ゆでたけのこ、400~600mlくらいの保存ビン、鍋、水
①ビンはあらかじめ熱湯消毒しておきます。適当な大きさに切ったたけのこをビンに詰め、縁から1cm下くらいまで水を入れ、ゆるくフタをします。
②ビンを鍋に並べて入れ、2/3くらいの高さまで水を入れて火にかけて、沸騰したら吹きこぼれない火加減で30分ほど煮ます。こうしてシュワシュワと出てくる空気の泡を脱気します。
③脱気が終わったらフタをきつく閉め、再度ビンを鍋に入れ、肩の高さまで湯を入れて火にかけ30分ほど加熱します。ビンを取り出し、逆さに置いてゆっくり冷まします。フタがきつく閉まってへこんでいれば常温で半年以上もちます。
たけのこ料理いろいろ
たけのこごはん、味噌汁、てんぷら、若竹煮などさまざまに料理できるたけのこ。今回は定番のたけのこ料理にちょっと飽きた時、プラス一品で喜ばれるレシピをご紹介します。たけのこは味が染みにくい素材なので、若竹煮などのようにあっさりいただくか、きんぴらのようにしっかり味付けするかどちらか決めて料理したほうがおいしさが引き出せます。
たけのこの切り方
基本の切りかたとしては、先端の柔らかい部分は厚みをもたせて、真ん中はやや薄くそれぞれ放射状または縦に切ります。根元のほうの固い部分は火が通りやすいようにスライスにします。あくまでもこの切り方は基本なので、料理にあわせて工夫してみてください。
■たけのこのきんぴら
少し濃いめの味付けでお弁当のおかずなどに
<材料>
ゆでたけのこ 200g
みりん 大さじ1/2~
醤油 大さじ1~
ごま油 小さじ1
七味唐辛子・山椒粉など 少々
<作り方>
①ゆでたけのこは、食感が固めの根元は5mm幅のいちょう切り、柔らかい穂先は同じくらいの幅で縦に切ります。
②フライパンか鍋にごま油を中火で熱し、たけのこを入れて炒めます。油がまわったらみりんと醤油を加えて煮絡めていきます。味が薄い場合は醤油とみりんを少し足します。仕上げの七味唐辛子や山椒粉など少々をふります。
■たけのこの味噌漬け
漬けておくだけで一品に。漬け床は最後は味噌汁や味噌煮で使いましょう。味噌漬けをグリルで炙ってもおいしいです。味噌床に酒粕や生姜などを加えても。
<材料>
ゆでたけのこ 適量
味噌 100g
みりん 30g~(好みで)
<作り方>
味噌とみりんをよく混ぜて、切ったたけのこを漬け込みます。大き目に切ると漬かりが遅いので、外側から少しずつ切って食べます。一口大に切った場合は半日から1日で食べられます。
■塩麹たけのこごはん
油揚げを入れることの多いたけのこごはんですが、油を少々入れるだけでもコクが出ます。塩麹を使えば酒や昆布を入れなくてもそれだけでおいしいです。
<材料>
ゆでたけのこ
白米 2合
塩麹 大さじ2
なたね油またはごま油 小さじ2
木の芽(山椒の若芽) あれば少々
<作り方>
米は洗って分量の水に浸水しておく。たけのこは一口大に切って米の上にのせ、塩麹をとなたね油を加えて軽く混ぜ、普通に炊飯する。器に盛って木の芽を散らす。
◆専門家プロフィール◆
岸田美紀
東京生まれ。1991年有機野菜宅配会社のスタッフとしてオーガニック流通の世界に入る。商品開発・カタログ制作など様々な仕事を行うかたわら、リマクッキングスクール他にて料理を学ぶ。その後、穀物菜食カフェのスタッフとしてにて、ケータリングシェフ、料理セミナー講師などを歴任。現在はフリーで「町でもできる自給自足的手づくり暮らし」をテーマに発酵食、保存食、マクロビオティックなどの講座を開催中。流通会社での経験を生かして、メーカー向けレシピ開発やコラム執筆なども手がける。