
春の味噌づくり
オーガニックな手づくり生活
オーガニック。この言葉から浮かぶのはどんなことでしょうか。もともとオーガニック(organic)の語源はオリジン(origin)、ものごとの根源、本来の、といった意味があります。農薬や化学肥料を使わない野菜やその栽培方法から、環境や健康に配慮したライフスタイル、生き方や考え方にも広く使われるようになりました。
このコラムでは、そんな広い意味のオーガニックから食や暮らしを考えます。季節のレシピを織りまぜた、自然と寄り添う「オーガニックな手づくり生活」をお伝えできたら、と思います。
今回のテーマは「春の味噌づくり」。春、3~5月にご家庭で仕込む味噌のおはなしです。
味噌は「寒仕込み」?
「手前味噌」とも言われるように、昔は各家庭で味噌づくりをしていました。同じ材料を使っても、家庭ごとにできあがりが違う。まさにおふくろの味、日本のソウルフードですね。
味噌は伝統的に「寒仕込み」、1~2月の最も寒い時季に仕込めと言われますが、いくつかの理由があります。寒いと雑菌が増えないので失敗しにくく、晩秋に収穫される大豆や米は鮮度も保たれ、お正月明けの農閑期にあたるなど、暮らしの流れにもあっていました。
でも、この時期を過ぎたら味噌はできないのかというとそんなことはありません。季節によって少しの違いがあるだけで、いつでも味噌を仕込むことができるのです。

そのまま菌を大豆に混ぜるよりも菌がより効果的にはたらくようにする先人の知恵です。
春の味噌づくり
味噌の材料は大豆と麹と塩。この3つに時間と温度が加わることで、おいしい味噌ができあがります。大豆や米のタンパク質や脂質、炭水化物に麹菌や酵母菌がはたらきかけるのです。
実はこの菌に含まれる酵素のうち、タンパク質を分解するプロテアーゼという酵素は15℃以下でははたらきません。味噌の発酵は気温が20℃くらいになって全体が動き出します。ですから、寒いうちに仕込んでもすぐに発酵は始まらないのです。
昔は「花見仕込み」といって、桜の季節の味噌の仕込みは、雑菌が入っておいしくないともいわれました。でもそれは1年分の味噌を1度で大量に仕込んでいたころの話のようです。現代の清潔な環境で、しかも家庭でつくるなら、少しのコツを押さえれば心配いりません。
春、3~5月ごろにつくる味噌は、気温が少し高くなっているので、容器は熱湯と焼酎での滅菌を念入りに、また大豆は温かいうちの手早い作業などをしっかり。菌のはたらき始めが早いので、仕上がりまでの時間が短くてすみ、あっさりした味わいとさわやかな香りの若い味噌になります。フレッシュさが身上ですから、いい匂いがしてきたら様子を見て、8~9月ごろ、おいしいと思った時に早めに冷蔵庫にしまいましょう。
味噌づくりは、仕込む季節が違っても、発酵の進み具合を気にかければ、季節ごとに楽しめます。その年の天候や置き場によっても進み方が違うので、毎月1日と決めて味見をしてみるのもおすすめです。食べごろだと思ったら、発酵が進みすぎないように冷蔵庫に入れます。半分をしまって、残りはそのままおいて変化を感じてみるのも自家製ならではの楽しみです。

味噌の仕込み方
◇材料 できあがり約2kg分
・丸大豆 500g (煮ると重さが2.3倍になる)
・米こうじ 500g
・塩 210g+ふり塩20gくらい 塩分約11%の味噌に仕上がります
◇用意する道具
・仕込容器(瓶、ポリ樽など)+落し蓋+1kgくらいの重石+ラップまたは竹の皮、経木
・大きいボールまたは厚手のポリ袋
・ざる
・計量カップ
・鍋(または圧力鍋)
・すりこぎ
・消毒用の焼酎(ホワイトリカーなどでも)
■前日の作業
①大豆をよく洗う
②大豆の4倍量の水に18時間以上浸ける(大豆は2倍くらいになるので大きめの容器で)
■当日の作業
①大豆を煮る
大豆を浸けておいた水はいったん捨て、大豆とひたひたの新しい水を鍋に入れて火にかける。沸騰してきたらアクが浮いてくるので、時々すくいとりながら、焦がさないよう、豆が水面から出ないよう時々水を加えながら4~5時間煮る(圧力鍋の場合は圧がかかってから15分ほど)。仕上がりのめやすは親指と薬指でつぶせるくらい。
②仕込容器、落し蓋、その他道具を熱湯消毒し、乾かしておく。容器の内側はできれば焼酎などで拭く。
③塩210gと米こうじ500gをよく混ぜ合わせておく。
④煮えた大豆をざるにあげ、煮汁と分ける(煮汁は捨てない)。大豆が温かいうちに大きなボウルか厚手のポリ袋に入れてすりこぎや瓶などでつぶす。
⑤潰した大豆が手を入れられるくらいの温度(だいたい50℃以下)になったら、③の塩と米こうじをよく混ぜ合わせる。煮汁1カップ前後を少しずつ加え、味噌くらいの固さに調節する。
⑥⑤をおむすび大に丸めながら、空気が入らないよう順に詰めて、最後にふり塩をまんべんなく上にかけ、ラップか竹の皮などを張り、落とし蓋をして重石をのせ蓋をする。
■熟成
家の中で温度変化が少なく涼しい、直射日光があたらない場所に置く。カビの原因になるのであまりしょっちゅう開けないようにする。2~3ヶ月くらいたってから中身を見て、押し蓋のまわりに「たまり」という醤油のような液が出ていたら重石を軽くする。
■できあがり
発酵して味噌の臭いがしてきたら開けてみて、上部に出たカビがひどければ、ふり塩ごと薄く削り取って捨てる。さらにおく場合は再度ふり塩をする(天地返しはしなくてもよい)。
おいしいころあいを見計らって、発酵が進みすぎないうちに小分けにして冷蔵庫に入れる。

◆専門家プロフィール◆
岸田美紀
東京生まれ。1991年有機野菜宅配会社のスタッフとしてオーガニック流通の世界に入る。商品開発・カタログ制作など様々な仕事を行うかたわら、リマクッキングスクール他にて料理を学ぶ。その後、穀物菜食カフェのスタッフとしてにて、ケータリングシェフ、料理セミナー講師などを歴任。現在はフリーで「町でもできる自給自足的手づくり暮らし」をテーマに発酵食、保存食、マクロビオティックなどの講座を開催中。流通会社での経験を生かして、メーカー向けレシピ開発やコラム執筆なども手がける。